「あれ、莉央。お疲れ」


 そこへ、なにも知らない高科さんが電話を終えて戻ってきた。

 彼の顔を見るなり、莉央さんは表情をガラリと変えて「おつかれ」と返す。

 さっきまでとは打って変わって優しく微笑むのを見て、こんな表情ができるのかと顔が引きつった。


「これからふたりでお食事?」
「うん」
「そっか。じゃあ、ごゆっくり」


 彼女は高科さんに小さく手を振ったあと、私を見てにっこりと不敵な笑みを浮かべて消えていった。

 私たちは駐車場に停めてある車に移動した。

 初めて彼の助手席に乗るというのに、莉央さんのことがあってそれどころではなくなった。


「朝倉さん、どうかした?」


 車が動き出してからひとつ目の信号で止まった途端、口数の少ない私の顔を覗き込んできた。慌てて笑顔を作り首を横に振ったものの、誤魔化しきれないモヤモヤがつい出てしまう。


「莉央さんとは幼馴染みなんですよね」
「うん。家が隣同士で、子供の頃から一緒に遊んでた」
「昔付き合ったこともあるって。幼馴染みと恋人同士になるなんてドラマの世界ですね」


 自分の回りくどい言動が嫌になる。これではまるで探りを入れているみたいだ。

 反応に困ったように「そうかな」と笑う彼は、それ以上なにも言わなかった。