「この前はどーも」


 細くて長い脚。後れ毛ひとつない黒髪。かき上げてびっちりとまとめられた前髪が、はっきりとした顔立ちを強調させている。目尻が少し引っ張られ、彼女の表情がきつく感じた。


「朝倉さん、だっけ」


 どすの聞いた声。

 鋭い視線を感じながら、彼女の目はそう長く見ていられなかった。

 高科さんが電話をして背を向けているのを横目に、コツコツとヒールを鳴らしながら近づいてくる。


「知ってる? 私たちが昔、付き合ってたの」
「……はい」
「伊織くんが高校を卒業する前、私から告白したんだ」


 付け加えるように言った言葉に、顔が青ざめる。

 頭が真っ白になり、どう反応すればいいか分からなかった。


「事故の話、聞いたんでしょ」


 一歩ずつ歩み寄ってくる彼女が冷静な口調で言う。


「記憶をなくしてから私はずっと彼を支えてた。大学も休学することになって、入院中の彼に夢だった航空学校を目指すように後押しもした」


 私より若干背の高い彼女は、背筋をぐっと伸ばして見下ろしてくる。


「私、まだ彼のこと諦めてないから」


 ひどく威圧的な態度。
 ピリついた空気が漂い、唾をゴクリと飲み込んだ。