笑って言う彼の横顔を見上げながら、心臓の鼓動が嫌なリズムを刻み出す。
「……どんな雲が、好きなんですか?」
恐る恐る口にしながら、顔が引きつって上手く笑えない。
「んー、知ってるかな?」
そう笑う彼の口から飛び出した言葉。
「巻雲、っていうんだけど」
いやだ。心臓が凍り付いたような気がした。
『あれ、巻雲って言うんだよ。最も高いマイナス四〇度以下の場所に発生する雲。刷毛でのばしたみたいに薄く広がってるでしょ。俺、一番好きなんだよね』
饒舌に好きなことを話す、高科先輩の横顔が重なった。
緊張の糸がぷつりと切れたように、体が酔っているのを思い出して胸のあたりがざわざわとする。
「え、大丈夫? 顔真っ青だけど」
高科さんに咄嗟に支えられ、お店の前に並ぶ丸椅子に座らせられた。
「送るよ、カバンとってくるから待ってて」
「大丈夫です」
「いや、でも無理しない方が」
「本当に、少し休めば平気なので」
目の前でしゃがみ込み、心配そうに見上げてくる彼から咄嗟に目を逸らす。
今、私はどんな顔でいればいいんだろうかと、いろんな感情が渦のようにぐるぐると回っていた。
「あの私もすぐ行くので、先戻ってください」
そろそろみんなが心配している頃かもしれない。
必死に笑顔を取り繕うと、高科さんはようやく諦めたように小さく頷いて店内に戻っていった。