「伊織くん、今度一緒に飲みにいこうよ」
「あー、うん。そうだね」


 強引さに顔をひきつらせながら、彼は曖昧に頷く。

 私は完全に戦意喪失した。


「飲みすぎた……」


 トイレに立つふりをして、少し風にあたろうと外へでた。

 火照る顔にはひんやりと冷たい風があたる。今日は少し夜が冷える。でも、今の私にはちょうどよかった。

 なんだか一気に酔いが回ってきた。

 ぐらぐらとする視界が気持ち悪く、思わずその場にしゃがみ込んだ。

 ほとんど莉央さんが話題をさらっていくから、私は食べるか飲むかの二択しかなくて、普段よりハイペースで飲んでしまっている。

 加賀美くんに止められたとき、素直に聞いていればよかった。かろうじてまだ働いている頭の片隅で今更後悔していた。


「おねーさん、大丈夫?」


 遠い意識の向こう側から声が聞こえた。

 顔を上げたら、サラリーマンらしきふたりの若い男性が視界を覆い尽くして、こちらを見下ろしている。


「え、めっちゃかわいいじゃん」


 相手もだいぶ酔っているようで、けたけたと大袈裟に笑いながらそんな軽い言葉を発する。