久しぶりに自分から好きになれそうだと思っていたのに。高科先輩に似たあの人をもっと知りたいと思ったのに。まさかこんな結果になるなんて想像もしていなかった。

 名刺の裏に書かれたIDを見つめる。

 高校生の頃、高科先輩とはメッセージのやり取りをしていて、まだトーク画面の奥底の方に履歴が残っている。もし、このIDを読み込んで先輩と一致してしまったら、私はどうすればいいのだろう。

 試しにやってみろと言わんばかりに、お肉で口いっぱいにして力強く頷く未奈子。私は大きく息を吐き出して、よしっと気合を入れてIDを打ち込んだ。


「どうだった」


 画面を見て、未奈子の言葉に首を横に振る。

 検索をかけても、新しく知らないアカウントが表示されただけだった。

 益々、混乱が混乱を呼ぶ。

 一周回ってなんだか冷静になってきて、お水を一気に飲み干した。


【お疲れさまです、朝倉です。登録お願いします】


 お気に入りのかわいい犬のスタンプの中から、ペコリと頭を下げているものを選んで送る。

 考えても分からないことを考えるのはやめよう。

 次に会ったら絶対に聞いてやるんだと心に誓い、もらった名刺は財布にしまい込んだ。