「それで異業種交流会、なんてどうでしょうか」
「異業種交流会?」
「ほら、滅多に他の業種の方と関わる機会もないですし。お食事しながらお話聞けたらなって。それにこの子、成田の担当になってから空港で働く方たちも利用してくれてるって喜んでて。ね?」


 少し芝居がかっているような気もするけれど、心の中では「ありがとう」と感謝を唱えた。

 ちらりと彼を見ると、強引な提案に戸惑っている様子だった。


「お忙しいでしょうし、無理にとは言わないので」


 咄嗟に思ってもいないことを言ってしまった。

 本当は来てほしいのに、逃げ道を与えるような言い方をしてすぐに後悔する。心の中では必死に両手を合わせ、祈るしかなかった。


「それは、朝倉さんもきますか?」


 予想外の返答だった。

 一瞬「え?」と聞き返したけれど、勘違いではないようで咄嗟に何度も頷く。


「はい、もちろんです」
「そうですか。それなら、ぜひ」


 これは自惚れてもいいのだろうか。

 おもむろに名刺を取り出した彼が、ポケットに挿していた高そうなボールペンでなにかを書き込む。その姿を待つ間、嬉しくて未奈子と目を見合わせていた。


「詳しいことはまた。ここに連絡してください」
「はい。ありがとうござ……います……」


 浮かれ気味に名刺を受け取った途端、亡霊でも見たような感覚に陥る。

 まさか、ありえない。

 動揺を隠しきれずに大きく唾を飲み込んだ。


「JSAで副操縦士をしている、高科です」


 しかし彼は、私の前で当たり前のようにそう名乗った。