「朝倉さん?」


 これは夢だろうか。

 本当に会えるなんて思ってもいなくて、驚きのあまり固まった。バシバシと叩いてくる未奈子の手に無理やり押し上げられて、私はぎこちなく立ち上がった。


「驚いた、よく会いますね。今日は……お仕事かなにかで?」


 小さなスーツケースを傍らにパンプスとトレンチコート姿の私を見て、伺うように聞いてくる。その奥では、さっきまで彼と一緒にいたCAの女性たちが獲物をとられたとでも言いたげな目で私を睨みつけていた。


「はい。えっと、はい」


 刺すような鋭い視線を感じて思わずどもってしまう。
 頭上からくすりと笑う鼻音が聞こえた。


「あの、先日は慌ただしくいなくなってすみませんでした」
「いえいえいえ、気にしないでください」
「実は、次の日謝ろうと思ってお店の方に行ったんですけど、いらっしゃらなくて」
「あ、たまにしか行かないので」


 会話の最中も後ろにいる女性たちがどんなに怖い顔をしているか、彼は気づきもしなかった。


「もしかして、新千歳(しんちとせ)ですか?」


 やっといなくなったと去っていく彼女たちに気を取られていたら、驚いたように言う声がして、高科さんがじっと私の手元を見ていた。ちょうどタブレットケースのポケットに差し込んでいた航空券が、彼の方を向いていた。


「一二五便って。これから私もすぐ後の便で新千歳に行くんですよ」


 彼は興奮気味に「すごい偶然ですね」と続けた。

 これが、運命というものなんだろうか。もうチャンスはここしかないと言わんばかりの状況に意を決して、彼を真っ直ぐ見上げた。