「おはよ」


 ひょっこりと顔を見せた未奈子を見て、待ち合わせの時間が来たことを知る。そう簡単に偶然が落ちているはずもないと、気を取り直して笑顔を作った。


「ねえねえ、向こうで食べたいお店リストアップしてたんだけどさ」


 未奈子がスマホのフォルダを見せてきた。楽しそうに写真を送りながら、美味しそう、ととろけそうな声を出す。今日の仕事は夕方には終わる予定で、夜は美味しいものを食べまくろうと前々から計画していた。


「ここ評価いいんだよね」
「ああ、でも混んでそう。予約とかできるのかな」


 ジンギスカンのお店を見せられ、写真や口コミを見て吟味する。同じ画面を覗き込んで、うーん、と唸りながらふと視線を上げた。

 その瞬間、反射的にバッと立ち上がっていた。

 そこだけスポットライトが当たったように光って、私の目に映っている。


「静菜?」


 不思議そうに見上げてくる未奈子に反応する余裕もなく、ただジッと彼を目で追う。

 あの人がいた。

 今日は数人の綺麗なCAの女性たちと歩いてくる。彼の周りの煌びやかな空間に圧倒され、すとんとその場に腰を下ろした。


「なに、急に立つからびっくりしたじゃん」
「ごめん……」


 ぼんやりと魂が抜けたような声を出す。いつまでも固まっている私を不思議に思ってか、未奈子がわざとらしく「おーい」と肩を揺らしてきた。

 そのとき、なぜかあの人の目がこちらを向いた。

 突然立ち止まった彼につられて、周りのCAたちも足を止める。手を合わせて断りをいれたような素振りを見せたあと、一直線に近づいてきた。