午前七時三十分、空港ターミナル駅に到着した。

 電車を降りたら、人であふれかえる駅の中はみんなが同じ方向に向かってスーツケースを引いていた。

 エスカレーターに乗ると、前にいた小さな子供がパンパンのリュックを背負って、お母さんの手を掴んでいる。

 先頭に立つお父さんに向かって、「飛行機乗るの?」と目を輝かせて楽しそうにはじゃいでいるのが微笑ましかった。

 もう随分、旅行になんて行っていない気がする。飛行機に乗るのは、もっぱら仕事のときばかりで、家族旅行なんて最後に行ったのはいつだっただろうか。菜乃花が小学一年生のときに一度飛行機へ乗ったら、嫌がって大騒ぎして大変だった。それ以来、我が家では飛行機には乗らなくなった。

 この子はどうだろう。パイロットになる、なんて夢を語り出したりして。勝手に他人の子供で妄想を膨らませながら、無意識に高科さんの顔を思い浮かべていた。

 未奈子との約束の時間までは少し余裕がある。

 出発ロビーの保安検査場近くで椅子に座り、タブレットを手に今日のスケジュールを確認する。コンビニで買ったホットコーヒーを横に置いて、出張に必要な資料を見返しながら、たまに気になって周りをきょろきょろと気にした。

 袖に金色の線が入った黒のダブルジャケット。特徴的な帽子をかぶっている彼らの制服は、歩いていればひと目でわかる。

 たまに通るパイロットが視界に入るたび、どきりとする。

 あの人ではないかとじっと目で追うけれど、横顔は似ても似つかぬ別人で、そのたびに落胆した。