つい最近も、同じチームの先輩からチケットが余ったからと野球観戦に誘われている現場を目の前で目撃してしまった。あれは誰がどう見てもデートのお誘いだったのに、彼は否応なしにふたつ返事で断っていた。
「ねえ? なんでだろうねえ」
未奈子が肩を寄せてきて、面白がったように言う。
めんどくさそうな顔をして目を逸らす彼は「別に」となにかぶつぶつと言っていた。
「そういえば聞いたことなかったけど、加賀美くんって好きな人は――」
「それより、週明けふたりとも札幌なんだって?」
いつも相談にのってもらうばかりで、ちゃんと聞いたことがなかった加賀美くんの恋愛事情。もう一歩踏み込んでみようとしたのに、呆気なく話題を変えられてしまった。
持っていたメニューを無造作に置いて、何事もなかったような顔をする彼に口を尖らせ、仕方なく頷いた。
来週は、一泊二日で異動してから初めての出張に行く。すでに出店している札幌に二店舗目を出すための下見で、マーケティング本部からは未奈子が立候補して行くことになっていた。
「残念だったね、加賀美。ふたりでたらふく美味しいもの食べてくるわ」
したり顔で言う未奈子の隣で、私はぼんやりとあの人のことを思い出す。
午前九時三十分、羽田空港を出発する札幌行きの便に乗る。
過去二回、あの人と会ったのは成田空港だったけれど、羽田でも会えるものなんだろうか。
でも、会えたらいいな。
今はそう願うことしかできなかった。