「前に話したでしょ。高校のときに好きだった先輩の話」
「ああ……」
「その人に凄い似てる人がいて。でも似てるから気になってるのか、その人が気になってるのか、自分でもよく分からないんだけどさ」


 話しているうちにだんだんと恥ずかしくなってきて、冗談交じりにハハッと笑って誤魔化した。

 加賀美くんは、変に気を遣ったりせず思ったことをはっきりと言ってくれるから、新入社員の頃からなにかと相談にのってもらってきた。仕事のこともプライベートの悩みもよく聞いてくれて、高科先輩のこともやんわりと話したことがある。


『それはどう考えても失恋確定。相当嫌われるようなことしたんだな』


 会社近くの公園で缶コーヒーを飲みながら、真顔でそうバッサリと言われたのを思い出す。

 なんで先輩の話になんてなったのか。まったく覚えてないけれど、たしかその頃付き合っていた人のことを相談していたような気がする。

 今思えば、まだ入社して間もないときから加賀美くんには恥ずかしげもなくなんでも相談ができた。聞き上手なのか、なんなのか。不思議と心を開いていた。


「へえ、……朝倉から、なんて珍しいな」


 すると、彼はおもむろに立てかけてあったメニューを手にとり、つまらなそうに頬杖をついた。


「パイロットらしいよ。しかも、あの大手〝ジャパンスターエア〟の」


 ニヤつきながら楽しそうに言う未奈子の言葉にも「へえ」とだけ反応した。

 きっと私の恋愛になんて興味もないのだろう。あからさまに不機嫌になったのが手に取るように分かった。今までも言わないだけでずっとめんどくさいと思っていたのかもしれない。そう思ったら無性に申し訳なくなってきた。