* * *


「もう会えないのかな」


 表に赤提灯が下がる居酒屋で、数年振りに同期三人が集まった。テーブルの中央に置かれた七輪からはもくもくと煙が立ち上る。

 私はその横で机に突っ伏し、空になったお酒のグラスを見つめた。


「また言ってるよ。職場が近いからって、そう簡単に会えるわけないでしょ」


 隣で焼き鳥をつまみながら、ちらりとこちらを見る未奈子と目が合う。


「わかってるけど」
「なんで連絡先くらい交換しなかったかな」 


 続けて呆れたように言われ、ムッと体を起こした。

 そんなこと自分が一番後悔している。一日中あの店で働いていれば、また会うチャンスもあったかもしれない。でも私は週に一回、それも一時間程度ミーティングに行くだけ。その間、ほとんど中にこもっているから店内にいるのはせいぜい十分程度だ。

 空を飛び回っているあの人が、スーツを着た会社員みたく毎日同じ時間に来店するわけもなく、会えるのは奇跡みたいなことだと分かっていた。


「なんの話?」


 ちょうど席を立っていた加賀美くんが戻ってきた。

 向かいの椅子に座り、私たちの顔を交互に見る。


「聞きたい? 静菜が最近気になってる〝男〟の話」


 事情を知っている未奈子は、ニヤニヤと不適な笑みを浮かべながら言う。

 私は「男って」と意味深な言い方に引っかかりながら、目が合った加賀美くんにこくりと頷いた。