『最後だと思うと寂しいな』


 しんみりと感傷に浸る先輩につられて、思わず私まで寂しくなってしまった。


『明日からはもういないんですね』


 ここは、思い出が多すぎる。ふたりで過ごした時間がひとつひとつ蘇ってきて、じんわりと涙が浮かんだ。


『記念に写真撮ろうよ』


 突然動き出した先輩が制服を羽織り、卒業証書の筒を手にする。窓辺に寄りかかる彼に言われるがまま、隣に並ぶ私は、慣れない自撮りに手が震えながらぎこちなく笑った。


『撮れた?』
『はい。よく撮れて……』


 携帯の画面を確認した途端、先輩の姿を見て固まった。笑う彼の制服に、ひとつだけ銀色のボタンが光っているのが見えたから。

 戸惑いながら視線を向けると、躊躇なく制服からボタンをとった。


『これは静菜ちゃんに持っててほしかったから』


 そう言って、手の中のものを大事そうに見つめる。

 制服もワイシャツも、ついていたボタンは全てなくなっていたのに、たったひとつ一番最初になくなるはずの第二ボタンだけが不自然に残っていた。

 緊張で汗ばむ手の平に乗せられた小さなボタン。その意味は、いくら鈍感になったって気づいてしまう。そのまま私の手を優しく包み込む先輩の手は暖かく、手の中におさまったボタンはひんやりと冷たかった。


『明日、土曜日でしょ。なにか予定ある?』
『いえ、ないですけど』
『じゃあどこか出かけない? 話したいことがあるんだ』


 真っ直ぐ見つめる彼の瞳にどきりとした。