柵に手を乗せ、軽々と柵を乗り越えた。ふわっとめくれるワンピースに思わず目線を逸らした。

「きっと今日も来てくれるって思ってたよ」

また笑顔でチカさんが言う。僕の隣に静かに腰を下ろしながら。

「あ、まぁ…すこし、気になってました」

僕は、チカさんと目線も合わせずたどたどしくそう口にした。今更だが、おそらく年上だろうから慣れない敬語を頑張って使う。そんな僕にふっと笑いながらまたチカさんが口を開く。

「なんで今更敬語?話しずらそうだしタメでいいよ」

僕が敬語に慣れていないことを見抜かれてしまっていた。ただでさえ人と話すのが苦手なのに、美人な年上の女性なんて僕にはハードルが高すぎる。

「あ、りがとう…」

ぼそっと言った僕にチカさんは「うん!」と明るく答える。昨日はミステリアスでクールで、大人っぽい人だと思っていたけどなんだが今日は子供っぽくてすごく可愛らしい。

「私、もっとナツくんのこと知りたいな」

チカさんが下を向く僕の顔を覗き込みながらそう言った。もっと僕のことを…?ってあれ、今僕のこと──。

「なつくん?」

たしかにチカさんは僕のことをそう呼んでた。