目が覚めているのか居ないのか分からない頭でまた、チカさんのことを考えてしまっていた。
僕は自分が不登校になったきっかけは覚えてない。なぜか急に世界が小さく狭く、「学校」という「社会」がくだらなく思ってしまった。そこからは何もやる気が出なく、死なないよう最低限のことだけして生きている。生きる理由はないが死ぬ理由もない。そんな僕はなぜチカさんのことを、あんなに必死にとめていたんだろう。

『なーつくん!』

突然頭に響いた声に、目をはっと開ける。どこが聞いたような声。それに、僕のことを『なつくん』と呼んでいた。僕のことをそう呼ぶ人は知らない。なんなんだろう、と思いながら目が覚めてしまったので身体も起こす。

「おはよう。もうお母さん仕事行くね」

下に顔を洗おうとおりると母にあった。玄関を出る直前のようだ。

「行ってらっしゃい」

と声をかけながら洗面所へ向かう。

「あ、ちょっとまって」

少し大きい声で母が僕を呼び止める。立ち止まり無言で母の方を見る。

「家のスペアキー、ここ置いとくから外行く時使って」

母はそう言いながら上の棚から黄色い鈴のついた鍵を、わかりやすい所に移動させてくれた。ありがとうという暇もなく母は仕事に行った。スペアキーの存在は知っていたような気がする。僕は外に出ないから使ったことも見たこともない。でもあの黄色の鈴はなぜか見覚えがあった。