30分程度で帰るつもりが1時間も経っていた。母に何か言われそうだなと、静かに玄関の扉を開ける。

「おかえりなさい。疲れてたら先お風呂入ってきなさい」

僕の想像とは反対に遅くなったことに何も言わず、優しく迎えてくれた。この家に帰るという感覚も久々だ。

「ありがとう」

そう言って僕は、部屋に戻った。たった1時間に、衝撃的なことが起こったせいでまだ頭の中がフワフワしてる。チカさんのまた明日という言葉がすごく気になってしまう。本当に明日もあの場所にいるのかは分からない。全く知らない人だしどうなったっていいハズなのに。なぜかあと人に死なれたくない。あの人のことは見捨てたらいけない気がする。なんでだろう、と思いながらお風呂に入った。

「七絃、公園どうだった?」

お風呂上がりの僕に母が問いかけた。その意味が、チカさんと会ったかを聞かれているような気もしたが母がその事を知っているはずは無い、とその考えは消した。

「桜咲いてた」

ご飯ができていたので席に座りながら答えた。あまり見てなかったけど桜綺麗に咲いてたな。

「そう。綺麗だった?」

ご飯中にこんなに僕に話しかける母は珍しいな、と思いながら母の声に頷く。そして今度は、僕から口を開く。

「明日も行く」

僕のその言葉に細いタレ目を大きくして驚いていた。が、すぐに笑顔になった。

「無理しないでね」

笑顔で母は言う。無理なんてしてない。案外外は怖くなかった。それに、もしかしたらチカさんは明日もあの場所にいるかもしれないのだから。