ご飯を食べ終え部屋に戻る。クローゼットを開け、黒いズボンと白黒のチェックのシャツを出す。久しぶりなこの感覚がすごく気持ち悪く感じた。

「少しキツイ」

着替え終え1人で呟いた。階段をおり、玄関で靴を履く。久々の外に足が震えたが母にはバレないよう、隠した。

「行ってらっしゃい」

母の優しい声を背に扉を開けた。少し前まで寒かったはずが、暖かい空気が流れ込んできた。

「行ってきます」

いつもより重たい声で母に返した。足を1歩外に踏み入れてからは、意外と楽勝だった。太陽の日差しは暑く少し強めの風は不快だが、重たい足は案外すんなりと進んだ。
少し歩くと小さい頃家族でよく行った芝崎公園にたどり着く。割と広い敷地に広い芝生と小さな池、散歩道がある公園だ。

「こんにちは」

公園を歩いてるとふとすれ違った人に声をかけられる。母以外に声をかけられたのはいつぶりだろう。上手く返すことが出来ず小さくお辞儀をした。少しばかり外に出たことを後悔してしまう。
やがて人通りの少ない池に辿りつく。ここは、他の場所よりも落ち着く。池の周りをゆっくり歩いてると人影が見えた。

「あれ」

思わず声が漏れる。自分にしか聞こえない大きさだけど。僕にはその人影が、池の周りの柵の内側に見えたからだ。