でも、でも、と泣きながら声を漏らす千佳ちゃん。こんなに僕に姉のことを思い出させてくれたことを後悔している。僕も何か言わなきゃと思い口を開く。

「千佳ちゃん、ありがとう」

言葉足らずだが、今千佳ちゃんにいちばん伝えたいことを伝えた。千佳ちゃんは驚いてこちらを見つめた。

「僕、急になにもかも嫌になったんだ。学校も社会も人も。でもきっかけはずっと分からなかった。千佳ちゃんが教えてくれたんだ、千佳ちゃんがお姉ちゃんのこと思い出させてくれたから僕はもう一度社会に向き合ってみようと思った」

静かに、慎重に言葉を選びながら話した。僕の言葉がどうか彼女に届きますように。

「七絃、くん」

千佳ちゃんは、僕の名前を呼び再び泣き崩れた。そんな姿を見て僕もまた涙がやってきた。

「私も、七絃も、千佳ちゃんも。ずっとあの4月で時が止まっていたのかもしれないね」

母が泣き崩れた千佳ちゃんのそばに駆け寄りそう言った。確かに僕らはあの日、それぞれ立ち止まってしまっていたんだ。でも今日、3人でもう一度歩き始められる。