しばらくチカさんと僕は2人で抱き合って泣いた。雨の中びしょ濡れになり、声も枯れそうだった。その後先に落ち着いたチカさんの方から、帰ろうと言われゆっくりと僕の家に向かった。雨は強くなってきていたが、傘はささずに手を繋いで2人で歩いた。僕もチカさんも一切口は開かない。

「え、七絃!?…それに、しつ、る…?」

家の玄関のドアを開けると直ぐに、パートから帰ってきて掃除をしていたであろう母がいた。

「…ごめんなさい、おばさん。千佳です。滝野千佳です」

申し訳なさそうに名乗るチカさん。いや、今は千佳ちゃんか。初めて聞いたはずのフルネームも、記憶の奥底にはあった。母は、驚きつつもびしょ濡れの僕らにタオルを持ってきてくれた。

「落ち着いたら話しましょう、服も着替えておいで」

焦っているはずの母の落ち着いた声に、少し安心する。僕は部屋で、千佳ちゃんは洗面所でそれぞれ体を拭き着替える。千佳ちゃんの服は、姉が昔来ていたものを母が用意したみたいだった。