腕を引っ張りあげてなんとか柵を乗り越える。雨に打たれながら僕たちは地べたに座り込んだ。

「ナツルくん…。思い出した…?」

先に口を開いたのはチカさんだった。僕はまだ頭痛に襲われ、状況を理解しきれずにいた。

「…僕には、お姉ちゃんがいた…?」

震える声で、涙と雨でぐしゃぐしゃになった顔を上げながら言う。チカさんと近距離で目が合う。同じく涙を流すチカさんが深く頷く。

「5年前の、4月…。お姉ちゃんがここで、池に飛び降りて…」

誰のか分からないような記憶を絞り出し話す。そうだ、僕には姉がいて…ここで今日みたいな雨の日に自ら命を…。

「うっ」

また激しい頭痛に襲われた僕をチカさんが抱きしめた。

「ごめん、ごめんね…。ごめんなさい」

耳元で必死に謝るチカさんの声が聞こえた。

「あたしは紫絃のことを助けられなかった。七絃くんのことも」

泣きながら叫ぶチカさんを僕は強く抱きしめ返した。