「お父さんは？あ、お姉さんとかいないの？」

やたら声を大きくして質問攻めをしているチカさん。父のことを誰かに聞かれるのは久しぶりだ。

「僕が生まれた数ヵ月後に事故で…。兄弟はいない、一人っ子」

僕には父の記憶は全くなく、ずっと母と二人で暮らしてきた記憶だけがある。パートをかけ持ちしながら祖父母の助けを借り、僕をここまで必死に育ててくれた優しくて努力家な母と2人で。正直不登校になる前のことはあまり覚えていない。きっと僕のことだから過去と今を比べて落ち込まないよう、自分で自分の記憶を削除したのだろう。

「あ、そっか。ごめんね」

またいつもの調子に戻ったチカさんは笑顔でそう言った。昨日と違ってずっと笑顔だな、なんて思いながら次の言葉を探す。

「この公園よく来るの？」

僕が言葉を探しているうちにチカさんが次の話題を出してくれた。チカさんはコミュ力が高い。僕とは大違いだな。

「家近くで小さい頃良く来てた。昨日来たのが5年ぶりくらい」

ちゃんと話せてる。会話ができてる。チカさんの話しやすさのお陰か、最初よりすんなりと言葉が話せるようになった。