「お帰り。大変だったでしょう、悪かったわね」
おぼつかない運転で実家に戻ると、やつれた様子の母が迎えてくれる。施設にいる祖母の世話で、彼女も疲れているのだろう。
「別にいいわよ、お母さんも大変なんだし」
私の答えに、母が意外そうな顔をする。
「あら、文句たらたらで帰ってくると思ったのに。殊勝なことね」
「何よ、文句言って欲しいの?」
「そういうわけじゃないけど」
母は言葉を切り、ちょっと考え込んでから続けた。
「お祖母ちゃんちに、何かお宝でもあった?」
私はドキッとしつつ、風呂敷包みを差し出す。
「お宝、かどうはわからないけど」
「何、これ」
「着物。なんか大事そうに天袋に置いてあったから、捨てられなかったのよ」
母は風呂敷包みを受け取ると、その場で結び目を解いた。
「夏物、かしら? 麻みたいね」
初めて見たような顔をして、母は着物を手に取った。やはり祖母に聞かねば、詳しいことはわからないだろう。
「明日もお祖母ちゃんとこに行くんでしょう? 私も行っていい?」
母は着物を畳みながら、こくりとうなずく。
「えぇ、お祖母ちゃんも喜ぶわ。この着物も持って行って、話を聞いてみましょう」