雑誌編集部なんてものは、もっとモダンでクリエイティブな空間だと思っていた。
 例えば壁にアートワークが飾られていたり、オフィスの一角にはリフレッシュできるソファスペースがあったり。

 でも実際は天井が低く、窓も少ない上に小さく、部屋全体がいつも薄暗い。デスクの上はごちゃついていて、キーボードやマウスの単調な動作音が聞こえるだけ。

 もっと大手なら違うかもしれないが、うちみたいな弱小の現実はこんなものだ。若者に向けた記事の内容は、映えスポットや絶品グルメなど華やかだけれど、私はオフィスの片隅でディスプレイとにらめっこしている。

 もちろん望んで就いた仕事だし、やりがいはある(時もある)のだけれど、ふいに空しくなってしまうのだ。契約社員という不安定な立場、決して高くはない給料、このままで本当にいいのかわからなくなる。

 認めたくはないが、やっぱり寿退社に憧れていたのだろう。この状況を打開できる恋に賭けていた。……だからあんな男に欺されたのだ。

 情けなくてため息も出ない。気づけば自己嫌悪に包まれ、全身に無力感が広がる。もう終わったことなのに、まだ完全には切り替えができていない。

「堤さん、編集長が呼んでますよ」
「ぇ、あ、はいっ」

 慌てて立ち上がった私は、ビクビクしながらデスクに向かった。きっと先日出した企画のことだ。あの呉服店で着想を得て、一晩で一気に書き上げたのだ。