「これは正真正銘、越後上布ですね」

 ネットで探して見つけた、家から一番近い垣内商店という呉服屋さんで着物を見せると、そこの主人が太鼓判を押してくれた。
 固まってしまった私が何も言えないでいると、彼は若干興奮気味に続ける。

「経糸も緯糸も、苧麻の手績み糸が使われています。状態もそれほど悪くありませんし、かなりの値打ちものですよ」
「じゃあその、百万円以上するって言うのは」
「うちでお買い取りさせていただくなら、このくらいの価格になりますね」

 叩いた電卓を見れば、そこそこの自動車が買える値段だった。私は呆然として、すぐに返事ができない。
 こんな高価なものを、どう管理していけば良いのか。私にはとても手に負えない。

 東京に持ち帰ってから、ずっと風呂敷に入れっぱなしだったけれど、やっぱりきちんとしたケースを買わなければならないだろう。防虫剤も必要かもしれない。
 あぁ、安請け合いなんて、するんじゃなかった。

「大丈夫、ですか?」

 頭の中はごちゃごちゃだったが、私はなんとか口角を上げた。

「え、えぇ、ちょっと、ビックリしてしまって。どうやって保存しておこうか、とか」

 主人はちょっと首をかしげてから、微笑んだ。

「売るつもりがないのであれば、お召しになったらいかがですか?」
「私はそんな、着れませんよ。こんな高価なもの」

 即答した私に、主人は諭すように言った。