「お祖母ちゃん、信じられないくらい元気だったわね」
私の言葉に、母が苦笑いする。
「いつもはああじゃないのよ。話しかけても、わかってるのかわかってないのか、ずっとぼんやりしててね」
母は常々そうぼやいていたから、私も覚悟していたのだ。でも今日会った祖母は、以前と変わらない明るくて朗らかな祖母だった。
「あなたが来たから、かしらね」
「あの着物のおかげよ」
孫の私の顔を見たときより、着物を見たときのほうが、目に力があった。まるで何かの使命を思い出したみたいに。
「そう、かもしれないわね。今のことより、昔のことのほうが、よく覚えてるみたいだから」
母は軽くうなずいてから、私に尋ねる。
「それよりあなた、あの着物本当にもらうの?」
「こうなったらしょうがないでしょう? 東京に戻ったら、とりあえず呉服屋さんに行ってみるわ」
「確かに専門家に見てもらうのは、いいかもしれないわね」
認知症の祖母が言っていることだからと、母は訝しんでいるのだろう。百万円以上という話も実際どこまで本当かわからないのだ。
「正直価値なんてないほうがいいわ。そのほうが気楽に預かれるもの」
「あら、値打ちものなら、売ってもいいのよ。ゴミ屋敷掃除の正統な報酬なんだから」
母はきっと優しさで言っているのだろう。
私が祖母の着物に、責任を感じなくて済むように。
「そんなわけにはいかないわよ。着ないにしても、ちゃんと保存しておくわ」
自分で言い出したくせに、私の答えを聞いて母はホッとした顔をした。嬉しそうに笑いながら、私の背中をトントンと叩く。
「いい孫じゃない。お祖母ちゃんも、きっと喜ぶと思うわ」