宗輔の部屋のキッチンは、男の一人暮らしにしては、食器も調味料も思っていた以上に揃っていた。

聞けば、私がそのうち来るだろうから少し買い足した、という。一緒に住むようになればもっと必要になるだろうけど、と彼は笑いながら付け加えた。

その言葉に、私は宗輔との未来を意識してしまった。しかし、これまで彼の口からそういう話が出たことはない。つき合い出してまだひと月ほど。こんなことを考えるのは気が早すぎると、自分を制した。

本心は――叶うのであれば、宗輔とずっと一緒にいたいと思う。彼の傍で暮らしたいと思う。「結婚」という確かな約束で結ばれたいと思う。あんなに嫌だと思っていたのが嘘のように、私は彼を愛してしまっている。だからこそ、私からは言い出せない。私を重たい女だと思い、彼の気持ちが離れて行ってしまうかもしれないのが怖かった。

だからまだ今は、未確定の先のことを考えるのはよそうと思った。そのことがふとした拍子に頭の中をよぎることもあったが、なんとかそれをかき消して、私は彼に笑顔を見せ続けた。今日は、宗輔の部屋で初めて一緒に過ごすこの時間を楽しみたい。

ふたりで用意した食事は、私が好きだと言っていたからと、クリーム系のパスタ。その他に、鶏肉を使ったサラダ、トマトスープ、おつまみになりそうなものを何品か。

お酒は――宗輔が用意してくれていた白ワインを、グラスに一杯だけ飲んだ。今日はアルコールはやめておこうと考えていたが、緊張を和らげてくれそうだと思ったのだ。

宗輔もまた、一杯だけと言いながらワインに口をつけた。

彼の顔に微かな緊張と照れくささのような色が見えて、私の緊張は和らぐどころかますます強くなってしまった。今夜この先に起こるかもしれないことを意識しているのは、きっと私だけではないのだ。