宗輔はふっと柔らかいため息をついた。

「それなら……」

いったん言葉を切ると、彼にしては珍しく歯切れの悪い言い方をする。

「例えば……。何か一緒に作って食べようか。俺の部屋で……とか」

私は目を見開いて訊ねた。

「料理、できるの?」

宗輔が「一緒に作る」と言ったことに、私は興味を引かれた。どうしてその後ろの言葉の方に反応しなかったのか。自分でも不思議でしかないが、その時の私は彼と料理が結びつかなくて、そちらの方が気になってしまった。

彼の顔に戸惑いが走ったような気もしたが、すぐにいつも通りの表情で私の問いに答える。

「一人暮らしだから、一応はね。簡単なものしか作れないけど」

「そうなのね……」

買い物をして料理をして、となると、今日は家に帰るのが遅くなってしまう。そう思った私はこう提案した。

「今日は私が払うから、私の行きたいお店に連れて行ってほしいわ。それで今度、宗輔さんの部屋で一緒にご飯作りましょ。もう少し早い時間に会える時の方がいいわよね」

「……分かった」

宗輔の横顔にちらと苦笑が浮かんだ。けれどその声音はいつもと変わらなかったから、私はそれ以上気にしなかった。

「じゃあ、今日はどこに行く?」

私はふふっと笑った。

「あなたに騙されて連れて行かれた、あのお店に行きたいな」 

「騙されたとは人聞きが悪い。あの時は仕方なかったんだよ。……久しぶりに行ってみるか」

今となっては、ある意味思い出の場所となっているカフェレストランだ。宗輔と初めて来た時は、気持ちもお腹も余裕がなかったから、ゆっくりと外を眺める暇もなかった。ここはやや高台にあるため、遠目に街の灯りがきらめく様子を眺めることができる。

「本当はこんなに素敵な場所だったのよね」

私のつぶやきを聞き取り、宗輔は微笑んだ。

「また一緒に来ような」

「えぇ」

美しい夜景と美味しい食事を堪能して店を出た後、宗輔はいつものように私を部屋まで送るためにハンドルを握った。

アパートに向かいながらほんの少しだけ遠回りをするのも、なんとなく二人の間の決まり事になっている。この日もやっぱりそうだったが、ただなぜか、宗輔はいつもより遠回りで車を走らせているようだった。そして途中、彼の気持ちを初めて聞くことになった公園に入り、ひっそりとした駐車場に車を止めた。