仕方がないと考えた私は、会社からそう遠くない場所にある商店街を思い出した。色々な店があるし、駐車場もあって待ち合わせしやすそうだ。それに――。課長に会ってしまう可能性は極めて低いけれど、人が多く集まっているここであれば万が一のことがあっても、その中に紛れて意外と目立たないかもしれない。

こうして互いに妥協した結果、その辺りの店で待つ――それが私たちの間のひとつの決め事となった。

甘やかされるのは嬉しいけど、過ぎるのは困るわね――。

そんなことを思いながら、雑誌をぱらぱらとめくっていたら、バッグの中で携帯が振動した。手に取って見ると、宗輔からのメッセージが入っていた。

―― 書店前の駐車場に着いた。

私は眺めていた雑誌をレジで購入して店を出た。駐車場の端の方に宗輔の車を見つけて、急ぎ足でそちらへと近づいて行った。

私の姿を認めた宗輔は車を降りて、いつものように助手席のドアを開けてくれる。

「おかえり」

「ただいま。宗輔さんもお疲れ様でした。今日もわざわざありがとう」

すでに何度もこういう扱い方をしてもらっているが、まだ慣れない。嬉しいのだけれど、照れくさくて背中がむずむずする。

「どういたしまして」

宗輔はそう言うとにっと笑い、自分も車に乗り込んだ。シートベルをかけながら私に訊ねる。

「何が食べたい?」

「そうね……。宗輔さんの行きたいお店に連れて行って」

私がそう答えると、宗輔は不満そうな顔になった。

「またそうやって、俺を優先しようとする。佳奈の行ってみたい店、言ってみて」

「え、えぇと、そうね……」

私は困ってしまった。本当は行ってみたい店は色々ある。けれど、そういう店に連れて行ってくれる度に、彼がすべての支払いを持ってくれることを申し訳ないと思っていた。

「佳奈は我儘どころか、思ってることをなかなか言ってくれないよな」

「そんなこと、ないと思うけど」

「いや、そういうところあるだろ。俺の前くらいは、言いたいことがあるなら言っていいんだぞ」

私は少し考えてから、おずおずと口を開いた。

「あのね……。一緒に食事したりするのはすごく楽しいの。一緒に行ってみたいお店だってたくさんある。だけど、いつも宗輔さんが全部払ってくれるでしょう?それが申し訳なくて、簡単には言えないって思ってしまうの」

「俺がそうしたくてそうしてるだけだし、もっと我儘言ってくれてもいいくらいなんだけどな」