高原が向かった先は、市民の憩いの場となっている公園だった。春は梅、桜、夏には青葉、秋には銀杏と、四季ならではの景色を楽しもうと、多くの人が訪れる。広大な敷地の中には様々な施設があり、駐車場も何か所かにあった。

高原はそのうちの一つに車を止めた。彼の車の他に駐車している車は見当たらない。水銀灯のおかげで辺りはそれなりに明るく見えて、さほど寂しいという雰囲気ではなかった。

「道路脇に車を寄せて話すってわけにもいかないから。それとも、ファミレスの方がよかったか」

「いえ、ここで。ファミレスに入ってしまったら、長居してしまいそうですから……。それに、話をするのなら、静かでちょうどいいんじゃないですか。周りを気にしなくてもいいですし」

そう言うと、私は早速疑問に思っていたことを口にした。

「もしかして、最初から気づいていたんですか?私があの時助けた人間で、楡の木でバイトしてたってこと」

「あぁ」

短く答える高原の横顔に、私はさらに訊ねた。

「どうして黙っていたんですか?」

別に責めているわけではなく、ただ単純な疑問だった。そのことを早く明かしてくれていたら、あんな風に高原を嫌うこともなかったのでは……と思う。五年前のことだって、もっと早くに礼を伝えることができていたはず。

高原はふうっと息を吐くと、シートに背を預けた。

「早瀬さんにとって、あの時のことは嫌な記憶だろう?あの時俺が君を助けた人間だったと伝えたら、そのことを思い出させてしまうと思ったんだ。忘れているのなら、その方がいい。だから、俺のことも覚えていないならいないで、全然構わなかった。あの飲み会を最初の出会いとして、また一から始めればいいと思ったのに……」

高原はそこで言葉を切ると、先ほどよりも深いため息をついた。

「もう会うこともないだろうと諦めていたはずの君が、目の前に現れたのは予想外で……。驚きすぎて、どんな顔をしたらいいのか分からなくなってしまった。その結果があれだ。本当は会えて嬉しかったのに、あんな態度を取ってしまうなんて、馬鹿だよな。今さらだけど、本当にすまなかった……」