「またいつでも二人で来てよね」

マスターのそんな声に見送られて、私たちは店を出た。

結局あの後金子から、もう一杯くらいつき合ってと言われて、断れなかった私はまた少しお酒を口にしてしまった。高原も金子からお酒を勧められはしたが、私に宣言した通り最後まで一滴も飲まなかった。

高原が「そうさん」だったことを知った時には、私の酔いも完全に醒めたものだったが、金子につき合ったおかげで今は再びほろ酔い気分だ。

高原はそんな私の足元を気にしながら、ぼそっとつぶやいた。

「早瀬さんは、金子君といる時の方が楽しそうだよな」

私はほわんとした気分が抜けないまま、彼に訊ねた。

「どういう意味ですか?」

「なんでもない」

高原は私から目を逸らした。

「なんでもないのに、どうしてそんな苦い顔をしているんです?」

「……嫉妬」

「え……」

その答えに弾かれたように、私は高原の顔を見上げた。そのままうっかりと通りに足を踏み出してしまう。そのせいで、私は道を歩いていた人にぶつかりそうになってしまった。彼が腕をぐいっと引っぱってくれたおかげで、衝突を免れる。私はその人に慌てて謝った。

「いやいや、こっちこそ失礼」

人の良さそうなその男性は、そう言って去っていった。

「大丈夫か。俺が先に出れば良かったな」

高原は私の背に腕を回して自分の方へと引き寄せた。

「いえ、私が周りをちゃんと見ていなかったせいですから。あ、あの、それよりも、離してくれませんか。人が見てます」

このタイミングで抱き寄せられた意味が分からない。さっきのひと言もまだ耳に残っていて、必要以上に高原と密着していることに、私は胸が苦しくなるほどドキドキした。

「人が見ていなかったらいいのか?」

高原に低い声でそう囁かれて、首筋の辺りがぞくぞくした。

「ど、どちらの場合でも駄目ですからっ。早く離して。私、タクシーで帰ります」

「だめ。俺が送っていくって言っただろ。うんって言うまでこのままだぞ」

そう言って高原は、さらにぐいっと私を抱き寄せる。