高原は少しだけ困ったような顔をしながら、金子に向かって片手を上げた。

「久しぶり。元気だった?」

「元気でしたよ。というか……え?この組み合わせって、いったい何なんですか?」

金子が混乱したような顔で高原に訊ねる。

私もまた、混乱と動揺の中にいた。

高原が「そうさん」本人だった――?

私たち三人の様子をカウンターの奥で見ていたマスターが、苦笑いを浮かべているのが目に入った。

はじめに金子を、次に私を見て、高原は言った。

「金子君も一緒に飲むか?」

「えぇと……」

金子は私と高原が一緒にいるという目の前の状況を、まだ飲み込めていない様子だった。

色々と飲み込めていないのは私も似たようなもので、さっきから頭の中で「そうさん」がリフレインしている。

そこへ助け舟を出すかのように、マスターが金子のグラスとボトルを運んできた。それらをテーブルに置くと、金子を高原の隣の席に促した。

「金子君も、高原君とは久しぶりに会ったんだろ?せっかくだから一緒に飲めば?」

「あ、はぁ、でも……」

金子は腰を下ろしはしたが、私と高原の顔を見比べるようにしながら口ごもる。

金子が何を思ったのかは察しがついた。おおかた私たちのことをデート中だとでも思っているのだろう。

そういうのじゃないから気にしなくていいよ――私がそう言おうとする前に、案の定、金子は高原の表情を確かめるような目をして言った。

「デート、なんじゃないんですか?」

きっと高原は、その問いを適当に流すか否定するはずだと思っていた。しかし彼は私をちらりと見てから、にっと笑って金子に答えた。

「実は今、口説いてる最中なんだ」

それを聞いた金子の顔に、戸惑ったような表情がちらと浮かんだ。けれどそれは一瞬で消え、そこには昔から変わらない人当たりのいい笑顔が浮かぶ。そして彼は、何かを納得したかのような顔で私を見た。

「……だからあの時、困った顔をしたのか」