「まさか、たった一杯でもう酔っぱらってるのか……」

高原は呆れたような顔で私を見た。しかし結局苦笑いを浮かべながら、ジェラートの乗ったスプーンをぱくりと口の中に入れた。次の瞬間、目を見開く。

「お、確かにうまいな。さすがマスター」

「ね、美味しいですよね」

私は高原の表情を確かめて満足げにそう言うと、ガラスの小皿から次のジェラートをスプーンにすくいとる。それを今度は自分の口に入れて、舌の上でその美味しさを味わっていると、片手で頬杖をついた高原がにやりと笑ってこう言った。

「ところで今のって、間接キスだよな」

「あ……」

そう言われて初めて、そのことに気がついた。

こんなに気を許すのはまだ早いのに――。

「早瀬さん、意外と天然だな」

高原はくすくすと笑う。

「天然で悪かったですね」

文句を言いながらも急に恥ずかしくなって、私は高原から視線を逸らした。

ドアベルが鳴ったのはその時だ。新たな客がやって来たようだ。

「やぁ、いらっしゃい」

マスターの声に、これもまたよく知る声が続いた。金子だ。

「マスター、何か腹の足しになるもの、お願いします。今日の昼、食べる暇なくって……」

そう言いながら、金子は自分の定位置と勝手に決めているカウンター席の一つに腰を下ろした。隣の空いている椅子の上に荷物を置こうとして、金子は私に気がついた。

「あれ、佳奈ちゃん?」

金子は目を丸くして立ち上がると、私の方へと歩いてきた。その途中で高原に気がついて、つと足を止めるとますます驚いた顔をした。

「あれ?そうさんじゃないですか」

「……え、そうさん?……って、えっ、あの、《《そうさん》》?」

私はぱちぱちと瞬きをしながら、目の前の高原を見た。