その翌日、仕事が終わってロビーに降りた私は、端の方に寄ってバッグから携帯を取り出した。昨夜もらった高原のメッセージを見返す。

電話、してみようか……。

しかし、と考える。あれだけ無視したのだ。自分からかけ直すというのは非常に気まずい。何より高原が怒っていないという保証はない。

もしも今度高原がかけてくることがあれば、その時に出ればいいじゃないかと消極的なことを思いながら、バッグの中に携帯を仕舞い直そうとした時だ。手の中で画面がぱっと明るくなり、着信音が鳴った。――高原だった。

周りには誰もいなかったが、ロビー中に響き渡る着信音に私は慌てた。すぐに止めなければと思い、留守番電話に切り替えようとして、うっかり通話のマークを押してしまった。

やってしまった……。

心の準備がまだできていないのに、電話の向こう側から声が聞こえた。

―― 早瀬さん?

間違えたふりをして、そのまま電話を切ってしまうこともできた。けれど、逃げ続けてばかりはいられないと私は覚悟を決めて、携帯に耳を当てた。

「こんばんは……」

―― やっと出たな。

電話の向こうで、ふっと笑ったような高原の気配がした。その声音の中に、私に対する怒りのようなものは感じられずほっとする。それと同時に、久しぶりに直接耳にしたその声に、胸がトクンと鳴って苦しくなった。

「すみません。忙しかったので……」

―― そういうことにしておくか。ところで、仕事は終わった?

色々な意味で強気には出にくく、私は高原の問いに素直に答えてしまう。

「帰ろうとしていたところです」

―― それなら、ちょうどよかった。今、君の会社の駐車場にいるんだ。