久美子が戸田をからかう。

「そんなこと言っていいの?カレ、ヤキモチ焼くんじゃない?」

「いいんですよ、たまにはハラハラさせた方が。久美子さんも、時々は旦那さん以外の男の人を見た方がいいですよ。あんまり一途すぎると、鬱陶しがられますよ」

久美子が鼻で笑う。

「うちは、そんな心配いらないの。……ごめん。脱線しちゃったね。えぇと、少なくとも年度内は、高原さんの対応は私と戸田で受け持つということでいいわけね。他の人にはばれたら説明が面倒だから、この三人の中の暗黙の了解ってことでいいよね。でもさ、最初のカウンター対応って基本戸田だし、楽勝だね」

持つべきものは物分かりのいい頼りになる同僚だ。私は二人に頭を下げた。

「二人とも恩に着る!」

「恩には着なくてもいいんだけど、その代わり」

久美子と戸田が顔を見合わせてにやりとする。

「ここの分、ご馳走して下さいよ」

――こうしてこの女子会で、私たちの間に内緒のルールが出来上がった。

ふと思い出したように、久美子が訊ねる。

「ねぇ、本当に高原さんとは何もないの?」

私はあの夜のことを思い出す。意識し始めてはいるが、その気持ちがこれからどうなるのかは分からない。自分の気持ちがまだ良く分からないのに、他の人には知られたくないとも思う。だから、短く答えた。

「ないよ」

戸田がにやりと笑う。

「そんなこと言わないで、嫌いじゃないならとりあえず付き合ってみたらいいのに。そうこうしているうちに、気持ちが芽生えるかもですよ。第一、早瀬さんさえ頷けば、即お付き合いって流れになりそうじゃないですか」

「は?」

目を見開く私に、戸田はくすくすと笑う。

「だって、早瀬さんが対応できないって時の高原さんの顔ったら……。ね、久美子さん?」

「そうよ。佳奈の時とうちらの時とでは、表情が全然違うよねぇ」

久美子までにやにやと含み笑いを浮かべて私を見る。

彼のどんな表情に気づいていたというのだろう。私と高原の二人の間では、そこはしっかり区別をつけると話をつけたはずだった。私は密かにどきりとしたが、平静を保つ。

「そんなことないでしょ」

「そう思ってるのは、佳奈だけだって」

「そうそう」

すでにパートナーがいる二人は、他人の恋バナが好物らしい。二人の餌食となってしまった営業職が過去にいたことを思い出し、私は慌てて話題の転換を図ろうと頭を巡らせた。