戸田の勢いと、あからさまな言い方に若干引きながら、私は一応念を押すように否定しておく。

「あの、私、ヤッてないし……」

しかし、すでにお酒が入っているせいもあって、私の声は二人の耳に届いていないようだ。いつの間にか当の本人以上に熱くなり、鼻息も荒く大木のことで盛り上がってしまっている。

「大木のやつ、高原さんに嫉妬してるんだよ。というより、ライバル意識みたいな感じ?」

「あぁ、それはあるかもですね。大木って俺がイチバン、みたいなところがありますもん。ってことは、やつはまだ、早瀬さんのことが好きってことですか。俺のモノに手を出すなんて、みたいな?フラれた腹いせだかなんだか知りませんけど、さんざん嫌がらせしておいて、まだそんな風に想ってるんだとしたら、ほんっと、ナイですよねぇ」

「ナイナイ。そんなことしたら、佳奈にますます嫌われるってこと、分かんないのかしらね。しかも勤務中、わざわざ呼び出して言うことかっての」

サワーをグイっと飲んで、戸田がぼそっと言った。

「……どうしてやります?」

久美子も日本酒の入った盃をくいっと飲み干すと、少し考えるように宙を見て言った。

「やっぱりあれでしょ。飲み物に何か入れるやつ」

私そっちのけで、二人の口から不穏な言葉が出始めた。

「あれはどうです?わざとものすごく熱いお茶を出すとか、逆にものすごく温いやつとか出してみたりするっていうの」

「悪くないけど、弱くない?もっとこう、インパクトある方法をさ……」

私は二人の勢いに気圧されてしまい、口を挟むタイミングをつかめないでいた。けれど、そろそろ二人を止めた方が良さそうだ。このまま放っておいたら、明日にもその「策」を実行してしまうのではないかと心配になってしまう。私は二人を交互に見て、なだめるように言った。

「二人とも、私のことでそんなに怒ってくれて、すごく嬉しい。だた、そういうことするのは、さすがに賛成できない」