「ぎょう、こう……?」

その漢字がすぐには頭に浮かばず、私は困惑しながらおうむ返しにつぶやいた。

高原は少し身をかがめて私に目線を合わせると、言い聞かせるかのようにゆっくりと言った。

「今度こそ、捕まえておきたいと思ったんだ」

「捕まえておきたい?……誰を?」

私は呆然とした声で訊き返した。高原の目が私を見ていると分かってはいたが、そう訊ねずにはいられなかった。

「もちろん君を」

「あり得ない……」

あの飲み会での、私に対する高原の態度は最初から最後まで、本当に最悪だった。生理的に嫌われているのではないかと疑ってしまったほどだ。それなのに、今の彼の言葉は、まるで私を好きだと言っているように聞こえる。しかしそんなことを急に言われても、私には戸惑いしかない。理解に苦しむ。それを素直に受け止められるわけがなかった。

「……馬鹿に、してるの?」

可愛げのない言い方だと十分に承知していたが、それが今の私の正直な気持ちだった。

高原は首を横に振ると、真剣な顔をして言った。

「馬鹿になんかしていない。早瀬さんのことが好きなんだよ」

私はぎゅっと眉根を寄せると、固い声で言った。

「からかわないでください」

「からかってなんかいない」

そう言いながら高原は私の目を見つめたまま手を伸ばし、私の頬にそっと触れた。

顔を背けようとすればできたのに、私はそうしなかった。その手を心地よく感じてしまったことに動揺する。

「信じてもらえないのは、仕方ないと思っている。あの日、あんな態度を取ってしまった自分のせいだと分かっているから。素直になれなかった自分に、今ものすごく後悔しているんだ。――これからゆっくりでいい。少しずつでいい。俺のことを知ってもらえないか」

「そんなこと、言われても……」

私の心は揺れ動き、拒否の言葉を即座には口にできなかった。

その瞬間を捉えたかのように、高原はすかさず言った。

「でも君は、俺といることが嫌じゃない――顔にはそう書いてある。違うか?」