結局――私は高原にアパートの前まで送ってもらってしまった。

車に乗ってからも場所をはっきりと言わない私に、高原は言ったのだ。

「俺が君を襲うとでも思ってるのか?早瀬さんって、思ったよりも自意識過剰なんだな」

からかうように言われて、カチンときた。そのまま、まるで売り言葉に買い言葉のような流れになってしまい、ついアパートの場所を教えてしまったのだ。またも苛々しながら思った。この人といるとペースが狂う……。

「今日は、本当に、色々とありがとうございました」

早く帰ろう……。

そう思いながら高原に礼を告げて、私は急いでシートベルトを外した。ドアを開けようとしたが、大事なことを言い忘れるところだったとふと手を止める。私は捻りかけた体を戻して高原に向き直った。

「あの、ですね」

ハンドルに腕をかけてフロントガラスの向こう側を眺めていた高原が、首を回して私を見た。

「何?」

「……今後のことですが」

私は唇を舌で軽く湿らせると、仕事用の改まった口調で早口で言った。

「今日は初回ということもあって私が対応いたしましたが、今後は基本的に、何かあればまずは営業の大宮にご相談いただいた方がよろしいかと思います。何よりその方が話が早いですし、お互いのためでもあるかと思いますので」

ひとまず言うべきことは全部言えたはず――。

そう思っていると、高原が聞き返してきた。

「――お互いのためってどういう意味?」

それはうっかり口を滑らせてしまった部分だった。だから、思った。

やっぱり聞いてきたか――。

私は高原と目を合わせないように顔を伏せて答えた。

「私以外の者が対応した方が、高原さんにとっても色々とやりやすいのではないか、という意味です」

「なぜ?俺は早瀬さんに対応してほしいんだけど」

「それは……」