料理が運ばれてきた。

立ち上る湯気と一緒に流れてきたいい匂いに、私の胃は刺激された。その途端、猛烈な空腹感に襲われて、私は思わずごくりと唾を飲んだ。

「腹、空いてたんだろ」

「えぇ、すごく。では、いただきます」

店員の姿が見えなくなると、私は早速フォークを手にした。

お任せということで、どんなものが出て来るのかと実は少しだけワクワクしていた。目の前に現れたのは、私の好きなクリーム系のパスタだった。大きめにカットされたベーコンが入ったカルボナーラだ。さすがにクッキー数枚だけでは、こんな満足感は得られない。私は噛みしめるようにしながら、料理を食べ進めた。

「うまい?」

しばらくして高原が声をかけてよこした。

私ははっと顔を上げた。食べることに集中してしまい、高原が目の前にいることをしばらく忘れてしまっていた。思い返せば、わざわざ私のことを気にかけて、ここに連れてきてくれたのだった。全く何も喋らずに食べてばかりいるのは失礼だったかと、少しだけ反省した。私は口の中味をごくんと飲み込んだ。

「はい、とても美味しいです。ここのお店って、なんでも美味しいんですよね」

「そうなのか。……あ」

高原がふっと言葉を切って、私の顔を見た。次の瞬間、その手を伸ばしたと思ったら、私の下唇を親指でそっとなぞった。

「な……なにをっ」

唖然として私は体を引いた。カッと頬に熱が上がる。

「ん?ソースがついてた」

目を見開いている私に、高原はにっと笑う。見ると確かにその指には、私の口元からふき取ったと思しきパスタのソースがついていた。

大きく動揺した自分が恥ずかしく、また、なぜわざわざそんな拭い方をするのかと高原に腹を立てた。

当然その気持ちは顔に出たが、彼は気にした様子もない。それどころか、指についたソースを舌先でぺろりとなめたのだ。

「なっ……」

高原は言葉に詰まる私を見て、次に皿に目をやると、憎たらしいくらい涼しい顔で言った。

「まだ残ってるけど?」