まさか急遽会食の予定が入るとは全くの予想外だったが、ひとまず今日は、落ち着いた雰囲気のワンピースで来ていてよかった――。

そう思いながら帰り支度を手短に済ませてロビーに降りていくと、高原は壁にもたれて立っていた。

その立ち姿につい見惚れそうになった自分に、私は呆れた。本当に心底認めたくはないけれど、高原は見た目《《だけ》》はすこぶるいいのだ。

いや、今はそんなことはどうでもいい。これからマルヨシの社長と食事をするのだ。これまで何度か世話係として、社長も含む代理店の会食に出席したことはある。しかし、こんな形での同席は初めてな上、やはり地元の名士、緊張する。

私はぶるぶるっと頭を軽く振って、高原の傍へ近寄って行った。

「お待たせして申し訳ありませんでした」

「あぁ、いや、大丈夫だ」

高原はそう言いながら体を起こす。また、くだけた口調になっている。

「とりあえず、外に出ようか。車で来ているから、それで行こう」

「え……」

私はうろたえた。

それを見て、高原が肩をすくめる。

「タクシーだとか、運転手付きの車にでも乗って来たと思った?」

「いえ、そういうわけではなくてですね……」

愛想のない高原と車に乗って移動するだなんて、その間何を話したらいいのだろう――。

私は目を泳がせた。

そんな私を見て高原は軽くため息をもらし、促すように声をかけてよこした。

「ほら、とにかく行くぞ」

彼はそのまま自動ドアに向かって歩き出す。

ここは大人しく従うしかないようだ。この後の食事会は接待のような意味合いもあるだろうし、社長をお待たせするわけにはいかない。

私は下唇をキュッと軽く噛むと、諦めて彼の後を追った。

高原の車は来客用スペースに止めてあった。白のSUV車。こういう車種が好みなのかとなんとなく納得する。彼は車の助手席のドアを開けると、私を目で促した。

「どうぞ」

「え?」

私は思わず動きを止めて、表情の薄い高原の顔をまじまじと見た。

「何か?」

「い、いえ、別に。ありがとうございます。失礼します」

高原は私が車に乗り込んだのを確かめると、丁寧にドアを閉めた。