「ところで社長の息子さんて、どんな人なんだろうね。やっぱりあんな感じの人なのかな」
「どうなんでしょうね。確か二人いるんですよ、息子さん。どっちの人なんだろう」
トントントン……。
ノックが聞こえてすぐにドアが開き、社長が入って来た。
「悪い悪い、待たせたかな」
「いえ、大丈夫です」
大宮が首を振る側で、私はドアの向こうに目をやった。人影が見えた。
「宗輔、早く入ってきなさい」
「……失礼します」
低いがよく透る声だと思った。
じろじろ見るのは失礼だと思った私はやや目を伏せて、彼が入ってくるのを待った。
パタンとドアが閉まる音がした。
隣の大宮が立ち上がったので、私も一緒に立ち上がった。宗輔と呼ばれた彼の靴先が目に入り、全然仕事とは関係のないことを思う。
―― 大きい足だ。
社長は自分の隣に立つ息子に言った。
「うちでお世話になっている保険会社の、大宮さんと早瀬さんだ。これからは、お前もお世話になる人たちだ」
「高原宗輔と言います。父ともどもよろしくお願いします」
待って。今、高原、って言った?いや、でも、まさかね……。
私はごくりと唾を飲み込んだ。
そう言えば、屋号にばかり気が向いていてうっかり忘れていたが、マルヨシの社長の姓は「高原」だ。「マルヨシ」の社名は、創始者の名前の一文字を使ったものだと聞いたことがある……。
「我々こそ、お世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」
大宮の言葉が頭の上をすうっと通りすぎて行く。
恐る恐る目を上げた私の前に立っていたのは、《《あの》》高原だった。