私が再び頭を上げた時、鈴木はちょうどドアに向かっていたところだった。

やっと帰っていく――。

ほっとした時、肩越しに振り返った鈴木と目が合った。

じとっとした恨みがましいような、それでいて私を値踏みでもするかのような粘着じみた視線。

ぞっとした。怖いと思った。

ドアベルの音が鳴り、ドアの閉まる音がした。

鈴木の気配がようやく消えた。

「佳奈ちゃん、大丈夫?」

心配そうなマスターの声にはっとした。自分でも気づかないうちに、エプロンの裾を握りしめていたらしい。その手を離してから、私ははぁっと息を吐き出し肩の力を抜いた。

「すみません。緊張しちゃって……」

マスターは申し訳なさそうに眉根を寄せた。

「ごめんね。ほんとは出禁にでもできればいいんだけど、なかなか難しくてね……。もし佳奈ちゃんさえ問題ないんなら、うちのバイト、やめてもいいんだよ。もちろん、本当はやめてほしくないんだけどね」

私は曖昧な笑みを浮かべた。

「すみません。私、マスターにご迷惑かけてますよね……」

「いやいやいや、そんなことないよ!いつも本当に、すごくすごぉく助かってるんだよ。俺の方こそ、きっぱり断れなくて申し訳ない」

私たちが互いにしゅんとした顔でいると、金子の声が飛んできた。

「マスター、木村さんがチェックだって!」

あっという間に空気が変わって、私もマスターも仕事モードに戻る。

「はいはい!ちょっと待っててね」

その翌週からだった。毎週来ていた鈴木の姿を見なくなったのは。