ただ、その彼女の気持ちは分かるような気がした。容姿も性格もその軽さも、ちょうどいい感じの金子は女の子にもてる。だから、彼女は不安だったのかもしれない。

モテるタイプの男性を恋人にするのは、とても大変そうだ。私は学生時代に金子を好きになりかけたことがあったが、今の話を聞くと、その気持ちが発展する前に終わって良かったのかもしれない、などと思えてしまう。

私はふっと笑った。

「何?」

「金子君は、あの頃とあんまり変わってないんだろうな、と思って」

「どういうとこが?」

「ん?《《人たらし》》っぽいとこ」

「人たらし……。それ、褒めてないよね。そういう佳奈ちゃんは、すっかりいい女って感じじゃない?学生の頃は本当に初々しいというか、可愛かったけど」

懐かしむような言い方が腹立たしく思えて、私は拗ねた顔を見せた。

「すいません。今は可愛げがなくて」

「そういう意味で言ったんじゃないんだけど。ね?マスター」

「そうそう。変なのに目を付けられないように、くれぐれも気をつけろってことを言いたかったんだよな」

二人は顔を見合わせながら頷き合う。

「大丈夫ですよ。私、もういい大人なので」

「そうなんだけど……。あんまり一人で夜遅くに出歩いたりするなってことだよ。また《《あの時》》みたいなことが起きたら嫌だろ?――あ、悪い。思い出させるようなことを、つい……」

しまった、とでもいうように、金子の顔が歪んだ。

私は苦笑を浮かべながら、ふるふると首を横に振った。

「大丈夫だよ。あれからもう5年はたってるし。さすがにもう、あんなことは起きないよ」

金子が呆れたような顔をした。

「無自覚なところは相変わらずなんだな」

「何?」

金子の顔に苦笑が浮かぶ。

「とにかく、今日は後で送ってやるから、お酒はもうほどほどにしときなよ」

「はいはい」

私は軽い調子で返事をすると、自分と金子のグラスにボトルからお酒を注いだ。