「私たち、もとからそんなに頻繁に連絡を取り合ってたわけでもないですよ?……あ、マスター、お客さんが呼んでるみたい」

「お、注文かな」

そう言いながらマスターが奥のテーブルに向かうのを、私はぼんやりと目で追っていた。

その時、ドアベルの柔らかい音が聞こえた。

何気なく入り口に顔を向けた私は、そこに顔見知りの姿を見た。今まさに話題にしていた金子悠太だった。

「金子君?久しぶりだね!もしかして、一年ぶりくらい?」

片手を上げて挨拶を投げかける私に、金子は驚いた顔をした。

「佳奈ちゃん?え、久しぶり!って、おいおい、なんで一人で飲んでんの?」

「一人じゃ悪い?」

「前に、一人で飲みに出るなって言ったはずだけど?」

「それは学生の時のことでしょ?私はもう社会人です。それに、酔えなかったから、飲み直ししてるの」

「なんだよ、飲み直しって」

マスターが金子に気づいていそいそと戻って来た。

「いらっしゃい。久しぶり」

前髪をかき上げながら、金子は軽く頭を下げた。

「ご無沙汰しちゃって、すいません」

「すごいねぇ、噂をすればなんとやら、ってやつ?ちょうど佳奈ちゃんと話してたんだよ。金子は元気なのかな、って」

マスターの視線を受けて、私も言葉を続けた。

「そうなのよ。タイミング良すぎてびっくりしちゃった。金子君、一人?マスターもいるから、一緒に飲んでも大丈夫だよね?」

金子の彼女のことを意識して、私はそう言った。

それに対して金子は何か言いたそうな顔をした。

しかしそれよりも先に、マスターが私の荷物を移動させて、金子の席を作った。それからパタパタとボトルやらグラスを準備して、私たちの前に置く。

「何かつまめる物、適当に出すね」

マスターに任せた料理が並んだところで、私は金子とグラスを傾け合った。

「乾杯!」

金子はグラスを置くと言った。

「さっきも聞いたけどさ。こんな時間に、どうして一人でここにいるんだ?」

「あぁ、それは……」