「五年前のことは消化できていたと思っていたのに、だめだった。あの人に触れられた途端、あの時の恐怖を思い出して逃げきれなかった。ごめんなさい……」

「どうして謝るんだよ。佳奈は被害者だ」

「だけど、私が油断しなかったら……。もっと早く支店長たちに相談していれば、あんなことは起きなかったかもしれない……」

「あのさ。もしかして、さっき本部長に話したことの他にも、何かあったのか?」

「それは……」

「今忙しくて、って俺、佳奈に愚痴をこぼした時があったよな。まさかあの頃か?佳奈のことだから、俺に気を遣って何も言えなかったんじゃないのか?北山さんたちにも黙っていたってことか?」

私はうつむいた。

「ごめんなさい……」

「責めてるわけじゃないからな。大事にするって言ったのに、気づいてやれなかった自分に腹が立つんだ。……ごめんな」

私は首を振った。

「謝らないで。久美子たちにも心配してもらってばかりで悪いなって思ったし、忙しいあなたに私の心配までさせるのは嫌だって思った。黙っていた私が悪いの」

「佳奈は何も悪くないし、君がそう考えてしまったのも分かる。ただ、佳奈は言葉を飲み込みすぎるところがあるだろ?だからこそ約束してくれないか。少なくとも俺にはなんでも話してほしい。俺にとっての優先順位は、いつだって佳奈が一番なんだ」

「はい……」

私はこくんと頷き、それから気になっていたことを口にする。

「社長にもご迷惑を……。私、明日にでも自分で説明したいのだけど」

「親父は迷惑だなんて思っていないさ。それに、あの状況から全部察したようだったよ。だてに年喰ってるわけじゃないんだな、あの人。そうだ、伝言があったんだ。佳奈はもう娘同然だし、それでなくても自分は味方だ、娘は佳奈以外には考えられない、だってさ」

今回のことで、私を宗輔の相手としては相応しくないと思われてしまったのではないか――浮かんできていた不安を見透かされたような気がした。けれどそれを払拭するような社長――義父の言葉にじんとして、涙がこぼれそうになった。

「言っておくけど、俺も同じだからな」

宗輔はそう言って頬を緩めた。