本部長は宗輔の話を、信じられないという顔で聞いていた。しかし、私の様子に加えて、久美子の証言、そして大木の口元とワイシャツの襟に残る血の跡を目にして、これが信じざるを得ない状況だとようやく飲み込んだようだった。ほぼ同時に、顔色を失う。

「大木君、どうしてそんな馬鹿なことを……」

「そこで集まって何をしているのかな?」

緊迫したその場の空気にそぐわない、穏やかな声が聞こえてきた。

「た、高原社長……」

本部長がうろたえた。まずい所を見られたと思ったに違いない。顔色がさらに悪くなった。

「北山さんと本部長さんが二人して出て行ったし、大木課長と早瀬さんもなかなか戻って来ないしで、何かあったんだろうかと気になってしまってね。……おや、宗輔。迎えの時間にはまだ早いだろう」

そう言いながら私たちの顔を見回して、社長はすぐに状況を飲み込んだらしい。

「――佳奈さん、大丈夫か?」

気遣うように私に声をかけると、宗輔に言った。

「彼女を早く連れて帰って休ませてやりなさい。あと一時間もしないうちにパーティーも終わりだ。後のことは、こちらの本部長さんにお任せすればきっといいようにしてくれるだろうから。――そうですよね、本部長」

社長はわざとらしくにっこりと笑い、本部長の顔を見据えるようにじっと見つめた。

「は、はい。もちろんです」

本部長の顔が引きつった。

「それじゃあ、俺は佳奈を送るから。社長、後はよろしく。……北山さん、ありがとう。お礼は後日改めて」

久美子は混乱したような顔をしていたが、徐々に色々と察し始めたらしい。ほっとした様子で、宗輔に言った。

「はい……。あの、佳奈のこと、よろしくお願いします」

「えぇ、もちろん」

宗輔は、床に落ちたままだった私のパンプスを拾い上げる。それをはかせてくれてから、私を支えて立ち上がった。

宗輔の肩越しに見えた本部長は腕を組んで、大木を厳しい顔で見下ろしていた。

大木の不貞腐れたような横顔が目に入り、つい今しがた受けた仕打ちのことが思い出されて、私は身震いする。

「大丈夫か」

宗輔の手が、落ち着かせるように私をぎゅっと抱く。

その柔らかい声に頷いて、私は彼の腕につかまった。