震え声で反論する私の言葉を、大木は流すように鼻で笑う。

「とにかくさ、少し話をしよう。色々と誤解があるようだからね。北山さんは先に戻って。私は後から早瀬さんと一緒に戻るから」

「冗談でしょう。このことは本部長たちに報告します」

「さて、信じてくれるだろうか」

「これまでのパワハラのことも全部話します」

「それくらいのことで、私をどうにかできるかな」

「っ……」

久美子がさらに大木をにらんだ時だった。

「佳奈!」

宗輔の声が近くで聞こえた。

首を巡らせた先に、血相を変えて大股で近づいてくる宗輔の姿が見えた。

「どうして……?まだ時間は……」

「早く着いてしまったんだ。北山さんが慌てた様子で出てくるのが遠目に見えて、それで嫌な予感がして……。怪我はないか」

訊ねながら、宗輔はジャケットを脱いで私に着せかける。

私ははっとして、乱れていた服を隠すようにジャケットの前をかき合わせた。

宗輔は私と久美子を背に立つと、恐らく初めて見る厳しい顔で大木に向き直った。

「大木さん、これはどういう状況ですか?まさか、早瀬さんに乱暴を?」

久美子が宗輔に訴えるように口を開いた。

「課長が、いえ、大木が早瀬に無理やり言い寄っていたみたいです。触られてキスまでされたって。今までずっとパワハラな態度を取っていたんだから、早瀬が受け入れるはずがないんです。ずっと嫌がっていたんだから……」

大木は血走った目で、宗輔をにらむ。

「彼女を好きになったのは私の方が先なんだ」

「どっちが先とか後とか関係ない。それにあなたは、自分が好きなはずの人を傷つけた。彼女を好きだなんて言う資格はない」

宗輔はぴしゃりと言い、さらに低い声で続けた。

「北山さん、すぐに上の人呼んできて。できればそっとね。本当は警察を呼びたいところだけど、事を荒立ててこれ以上佳奈を傷つけたくはないから」

言い方は穏やかだったが、声の底に怒りが滲んでいるのが分かった。

それから程なくして、本部長が久美子に先導されてやって来た。目の前の状況をすぐには飲み込めない様子で、目を瞬かせている。

「いったい何が……?あなたは確かマルヨシの」

「高原です。実は早瀬さんが、大木さんから乱暴されたようでして」

「えっ」

本部長が息を飲んだ。