これまでにもう何度か、社長と奥様、宗輔と四人で食事に行ったりしていたが、今日のように仕事用の顔をして会うのは久しぶりだった。

年明けに挨拶に行った時に、当分は宗輔との交際について知らないふりをしていてほしいという私の言葉を、社長は快く聞き入れてくれた。それ以来、公の場では今まで通りの顔で接してくれている。

だから私も、これまでと変わらない笑顔を心がけながら頭を下げた。

「本日はお越し頂きまして、ありがとうございます」

「いやいや、こちらこそありがとう。……ところで早瀬さん、ちょっといいかな」

社長は私を手招きしながら、久美子と川口が話している場所から離れた。

「何か問題でもございましたか?」

緊張した顔を見せる私に、社長は少しだけ声をひそめるようにして言った。

「いや、問題とかではなくてね。……今日は宗輔が迎えに来てくれるんだけど、一緒に帰れそうかね」

先週宗輔と会った時に、彼がそんなことを言っていた、と思い出す。社長が一緒ならなんとでも理由をつけられそうだが、大木に宗輔といるところを見られるのはまずい気がした。私も若干声を落とすと、申し訳ない気持ちで答えた。

「えぇと、ちょっとした後片付けなどもありますし、難しいと思います。宗輔さんにもそのように言ってありまして……」

社長はやっぱりという顔をした。

「まぁね、そうだろうとは思ったんだけどね。せっかくだから、一緒に帰れればいいかと思ったものだから」

「すみません。お気遣いありがとうございます」

気にしないでいいよ、と社長は笑って付け加える。

「宗輔も、父親の私なんかより佳奈さんを送迎した方が嬉しいんだろうにな。余計な時間取らせてしまって悪かったね。今日はよろしく頼んだよ。さて、私は他の皆さんに挨拶でもして来ようか」

「よろしくお願いいたします。行ってらっしゃいませ」

私は頭を下げて社長の背中を見送った。