部屋に戻る途中、持って出ていたバッグの中からメッセージの着信音が聞こえた。

「ごめん。先に行ってていいわよ」

「一緒に行った方がいいって。まだあの人がいたら面倒でしょ」

「ん……じゃ、ちょっとだけ」

急いで携帯を見ると、案の定宗輔からだった。彼の仕事も終わって、これから楡の木に向かうという連絡だった。今夜この後、二人で顔を見せに行きがてら、マスターには私たちのことを伝えておこうかという話になったのだ。

あと三十分ほどで終わると返信して、携帯を仕舞う。

「ごめん、お待たせ」

「どういたしまして。……幸せそうな顔してたよ。顔、直して戻った方がいいんじゃない」

からかうように言われて、私は自分の顔を抑えた。

久美子がくすくす笑う。

「さて、行こっか」

部屋に戻ると、大木は元の席に戻っており、支店長と並んで座っていた。私はほっとしながら久美子と一緒に戸田に合流し、最後の締めとばかりにジェラートを注文した。

新年会はほぼ時間通りに散会となった。他の者たちと一緒になって、がやがやと店の外に出る。久美子と戸田は先に行ってしまったのか、姿が見えない。どこだろうと探している時、不意に背後に大木が立った。

「もう帰るのかな?」

ドクンと心臓が大きな音を立てた。首筋が強張る。

目線のすぐ先に久美子と戸田を見つけたが、二人はこちらに気づいていない。他の男性たちも二次会に行くかなどと話していて、今のこの時、大木と私に注意を払っている者はいなかった。

私は聞こえなかったふりをして、急いで久美子たちの方へ移動しようとした。ところが、それを引き留めるように大木の手が肩に乗る。触れられたところから全身に悪寒が走った。

「この後二人で飲みに行かないか?」

「い、いえ、もう帰りますので」

「そんなこと言わずにさ。色々と話をしたいんだけどね」

「課長!課長はこの後どうします?」

ちょうどその時聞こえてきた自分を呼ぶ声に、大木の気が逸れた。

その隙に、私はその手から逃れて久美子たちの傍へ向かう。

危なかった――。

私は気持ちを落ち着かせようと深呼吸をし、二人に口早に告げた。

「ごめん、今のうちに帰るわ。また来週ね」

私はその場から急いで離れ、逃げるように繁華街の人の波に紛れ込んだ。