高原は腕を組んで私を見ていた。
「カラオケ、嫌いなのか」
私は戸惑ったが、微笑みを浮かべて答えた。
「嫌いではありませんけど。今日はあの二人が主役だと思うので……」
「なるほど」
彼は納得したように頷いた。
本当に急にどうしたのかしら。自分から話しかけてくるなんて――。
まさか今頃になって、気を遣ってくれているのか。ふとそう思ったが、すぐに打ち消す。何しろ一次会での印象が最悪だったのだ。その時の不快感が忘れられない私は、嫌味の一つも言いたい気分だった。
「あなた、普通に話すこともできるんですね」
私はあえて彼の名前を口にせず、皮肉を込めて言った。
高原はふっと口角を上げた。
一瞬笑ったのかと思った。しかしそれは私の目の錯覚だったようだ。
「人と場合による」
嫌味が溢れる言い方に苛立って、私は笑顔を忘れて眉間にしわを寄せた。
「何ですか、それ。意味が分かりませんが」
「別に。分かってもらわなくてもいいさ」
「まぁ、そうですよね。私も分かろうとは思いませんけど。どうせ、もう会うことはないでしょうから」
「早瀬さんさ……」
高原が何か言いかけた。
私の苗字、ちゃんと覚えてたんだ……。
そのことに少し驚いて目を瞬かせていたら、ちょうどイントロが終わって前田が歌い出した。それと同時に、時間延長の確認の連絡が入った。
私はかおりたちの意見を聞かずにすかさず答えた。
「終了で」
時間を延長しなかったことで文句を言われるかと、私は身構えた。
しかし、この後前田と二人でもう一軒飲みに行こうという話になったらしく、かおりはうきうきしていた。