私は姿勢を正して膝の上に両手を置き、改めて口を開いた。

「社長、奥様、これからよろしくお願いいたします。それから……。今日は、宗輔さんとお付き合いさせて頂いているというご挨拶でお邪魔したわけですが、このことは、まだ会社には伏せておきたいのです。だから――」

私の言いたいことを察して、社長は大きく頷いた。

「私たちは、まだ何も知らないことにしておくよ。周りに話すのは、色んな事が決まってからの方がいいだろう。と、言うか……宗輔、お前、まだ正式には」

「これからだよ」

「なんだ、悠長だな」

社長は呆れたような顔で宗輔を見た。

「言われなくても分かってる。今日の目的は佳奈が今言った通り、俺たちがつき合っているっていう報告と、見合い話の阻止だからな。近いうちにまた来るよ。それまでは黙って見守っていてほしい」

やれやれと言いたげに、社長は奥様と顔を見合わせると苦笑しながら言った。

「分かった。いい報告を待ってるからな。ところで、早瀬さんに一つお願いがあるんだけどね。佳奈さんって呼んでもいいかな。私たちのことも、社長とか奥様じゃなくて……」

「お義父さん、お義母さん、とかね」

社長の隣で身を乗り出すようにして言いながら、奥様は嬉しそうに続ける。

「ほんとは娘がほしかったのよねぇ。だから嬉しいわ。ね、佳奈さん、時々私とお茶しましょうね。もちろん、宗輔優先で構わないから」

「は、はい」

奥様――お義母さんの話がまだ続きそうだというのに、宗輔はその腰を折るように口を挟んだ。

「佳奈、そろそろ帰ろう」

お義母さんが不満そうに宗輔を見る。

「ご飯食べて行けばいいのに」

「俺も彼女も明日から仕事なんだよ。親父だってそうだろ」

「あら、そうだったわね。――それなら仕方ないわねぇ。佳奈さん、またゆっくり来てちょうだいね」

「はい、ありがとうございます。ぜひまたお邪魔させてください」

「佳奈さん、近いうちにみんなで食事に行こう。それから――すぐには難しいだろうけど、仕事じゃない時は、もっと気楽にな」

「は、はい、ありがとうございます」

「佳奈、行こう」

「えぇ。――今日はこれで失礼いたします」

私は宗輔の両親に向かってもう一度深々と頭を下げた。